令和8年度 処遇改善計画書の検証 — 3つの矛盾
大阪市の情報公開制度で入手した令和8年度の福祉・介護職員等処遇改善計画書(令和8年6月施行分)を分析したところ、書類の記載と実際の給付実績との間に複数の重大な矛盾が見つかりました。このページは、その内容を公文書に基づいて一般の方向けに整理したものです。
このページの指摘は、いずれも「不正があった」と断定するものではなく、「疑い・要検証」として提示しています。各論点には、行政が確認できる手段を併記しています。最終的な評価・判断は所管行政庁に委ねられます。
何が問題か — 3つの柱
これらはいずれも、稼働実態の追加調査を要さず、すでに開示された公文書(処遇改善計画書・給付費明細書)だけで確認できる点が特徴です。
問題① 報酬総額が、実際の給付の約4分の1
処遇改善計画書には「一月あたりの報酬総額」を記載する欄があります。しょーとすていYorimadoのこの欄は、実際の給付実績の約4分の1にとどまっていました。
実際の給付額は、大阪市が開示した給付費明細書181件(令和6年12月〜令和7年10月分)から推定したものです。推定方法は 収支・求人ページの給付実態分析 と同じで、令和7年4〜10月で月平均約419万円になります。明細書には令和6年12月分の請求が含まれており、計画書の提出時点で事業所には十分な請求実績がありました。
様式どおりに計算しても説明がつかない
国の事務処理手順は、報酬総額欄を「前年1〜12月のサービス別報酬総額(各種加算を含む)を12で割るなど適切な方法」で見込むよう指定しています。前年実績(推定で年約4,800万円弱)を12で割れば約400万円になるはずで、記載額100万円はその約4分の1です。
「事業拡大等で増減が見込まれる場合は調整可」という例外もありますが、100万円を正当化するには前年実績から約75%の縮小が必要です。ところが同じ計画書で事業者は利用者数を24名(実績の16〜22名を上回る水準)と記載し、加算も上位区分へ移行しています。いずれも事業拡大の方向で、縮小見込みとは正面から矛盾します。
なぜ問題なのか
三者が同時に正しいことはありえない
整理すると、(A) 計画書の報酬総額(月100万円)、(B) 国保連への請求実績(推定 月約419万円)、(C) 定員6名・日曜定休という事業所の物理的な規模 ——この三者は互いに矛盾しています。
- 計画書が過小なら → 賃金改善の約束が実態より小さく設定され、賃金改善の不履行(中抜き)の疑いに至ります。
- 請求が過大なら → 本サイトが従来から指摘してきた推定稼働率129%(定員6名で1日平均7.7名=物理的に不可能)と整合します。
どちらにしても、少なくともいずれか一つは事実と異なることになります。本来であれば、給付費が適正に支払われているかの調査と、必要に応じた是正・返還が求められる状態です。
問題② 代表者の「常勤」の二重計上
しょーとすていYorimadoの基本報酬は「福祉型強化短期入所サービス費」で、これは常勤の看護職員を配置する体制が前提です。法人で看護師資格を持つのは代表社員の溝口愛氏であり、同氏がこの常勤看護職員に該当する疑いがあります。
一方で、同じ溝口愛氏は別事業所「ちるMado(移動支援)」の常勤の管理者兼サービス提供責任者でもあります。開示済みの勤務形態一覧表(様式第15号・令和7年4月)で、同氏が単独で常勤換算1.0を満たす構造であることが書面で確定しています(ほかの従業者は全員「非常勤」)。
- 短期入所(しょーとすていYorimado)
- 常勤の看護職員として、福祉型強化短期入所サービス費・常勤看護職員等配置加算の前提(常勤換算1以上)になっている疑い
- 移動支援(ちるMado)
- 常勤の管理者兼サービス提供責任者として、常勤換算1.0が書面で確定(令和7年4月の様式第15号)
- 行動援護(ちるMado)
- 管理者(令和7年9月開始)。サービス提供責任者の兼務の疑い
1人が同じ週の労働時間を「移動支援の常勤(換算1.0)」と「短期入所の常勤看護職員(換算1.0)」の両方にあてることは物理的に不可能です。さらに行動援護の管理者業務も加わります。この二重計上が事実なら、短期入所の常勤看護職員配置という前提が崩れ、基本報酬と加算が算定要件を欠く=返還の対象になります。
このほか、行動援護については (1) サービス提供責任者の資格要件(実務経験3年以上)を満たすか、(2) ヘルパー(常勤換算2.5人以上)が実在するか、も要検証の論点です。
この常勤性の二重計上は、本サイトが従来から指摘してきたしょーとすていYorimadoの実質的な管理者不在とは別の、新たに判明した論点です。
問題③ 処遇改善加算「ロ区分」の要件不足
しょーとすていYorimadoは処遇改善加算を上位区分のⅠロ(加算率19.3%)、ちるMado(行動援護)はⅡロ(同40.6%)で算定しています。この「ロ区分」には特例要件があり、生産性向上の取組を5項目以上(うち2項目は必須)実施するか、社会福祉連携推進法人に所属することが必要です。
ところが、開示された計画書のチェック欄は生産性向上の取組が4項目のみで、連携推進法人所属の記載もありません。つまり「5項目以上」に1項目足りず、公文書の記載自体がロ区分の要件を満たしていない疑いがあります。これは稼働実態を調べるまでもなく、書面だけで確認できます。
すべて、公文書だけで確認できる
①〜③の論点は、いずれも大阪市が開示した公文書(処遇改善計画書・給付費明細書・勤務形態一覧表)だけで示すことができます。推測ではなく、すでに行政の手元にある書類を突き合わせれば確認できる、という点が共通しています。
なお、乖離を推定値ではなく実額で確定させるため、令和7年度の処遇改善実績報告書や国保連への請求実績(月次)の開示も求めています。制度上は、報告徴収・帳簿書類の検査・実地調査の権限により、実額を確認することが可能です。
制度上、確認・是正が求められる点
これらの矛盾が事実であった場合、制度上は次のような確認・対応が想定されます。
- 特別監査による確認
- 勤務形態一覧表・体制届・賃金台帳・出勤簿などの突き合わせによる、常勤性の二重計上の有無、報酬総額欄の積算根拠、賃金改善義務の履行状況の確認(障害者総合支援法第48条)
- 給付費の返還
- 算定要件を欠く加算・基本報酬や、報酬総額の過小記載・賃金改善の不履行・請求の水増しが確認された場合の返還(不正受給の場合は4割の加算金を含む。同法第8条第2項)
- 指定の取消し・効力停止
- 人員基準違反や不正が確認された場合の、指定の取消しまたは効力の全部・一部の停止(同法第50条)
出典・根拠
- 報酬総額の乖離:大阪市の情報公開制度で開示された「障害福祉サービス費等の支払決定額内訳書」181件(令和6年12月〜令和7年10月分)から推定。給付額は黒塗りのため、開示されている処遇改善加算Ⅰの単位数(短期入所=報酬総額の15.9%)から総単位数を逆算し、大阪市・二級地の単価10.96円/単位を乗じて算出(収支・求人ページ と同じ方法)。
- 常勤性:開示済みのちるMado(移動支援)の従業者の勤務体制及び勤務形態一覧表(様式第15号・令和7年4月)。
- 加算ロ区分:開示された令和8年度 福祉・介護職員等処遇改善計画書(しょーとすていYorimado・ちるMado)の生産性向上取組欄、および大阪市配布様式(Excel)の数式構造。要件の根拠は「福祉・介護職員等処遇改善加算等に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について」(障障発0331第1号・こ支障第78号〔令和8年3月31日〕)。
- 本ページの金額・倍率はいずれも上記の方法による推定値であり、不正があったと確定するものではありません。